日本では、生産者が急速に減っています。2000年に約240万人いた農業従事者は、2023年に約116万に。2040年には35万人にまで減少すると言われています。
現在の栽培方法では、農作物生産の持続性が担保できなくなってしまうかもしれないのです。
生産規模を拡大し、少ない労働力で高収量・高収益を得られる仕組みを整えないと、需要と供給のバランスが崩れ、農作物の値段が上がります。その結果、わたしたち一般消費者は今までのように農作物を気軽に食べられなくなってしまう可能性があるのです。そこで大切なのが……
百津生産性の高い技術を持つ農家さんを見本として、他の生産者さんがその手法を真似することです。それができれば、農家さん一軒あたりの収量と収益が上げられると考えています。
そこで私たちは高い技術を持つ農家さんと連携して、その栽培技術をIoTやAIで可視化し、再現できる仕組みの開発を進めています。
柑橘生産において、私たちが手本とさせていただいているのが、愛媛県真穴エリアの黒田さんです。一般的なみかん農家の1年間あたりの平均の反収はが約2.2tといわれるなか、黒田さんは10年平均で反収7.5tでみかんを生産し続けています。
今回の記事では、黒田さんの柑橘生産方法の重要なポイントの1つである「灌水」の秘密に迫ります。
スプリンクラー灌水・ホースでの手灌水では、環境変化に十分に適応できなくなっている
愛媛県真穴エリアの多くのみかん農家は、スプリンクラーを用いて、1回あたりおよそ10mm(降水量換算、1㎡あたり約10ℓ:比較的強い雨と同じくらい)の灌水を行っています。しかし、スプリンクラーは地域の農家の共同施設であり、自分の農場の都合では灌水できません。周りの農家と同じタイミングで、最低限の頻度でしか灌水できませんでした。



ちなみに、ホースでの手灌水を行っている地域もまだまだあります。とても手間がかかるので、灌水の時間の確保が大変なんです。摘蕾・摘果などの管理作業との両立が難しいんですね。


一度に10mmの水をスプリンクラーで放水し、雨が降らなければ3〜4日間隔で灌水をします。灌水をして4日後には、土の表面はすでに乾いてしまっているので、次の灌水のタイミングの直前には、みかんの木が強いストレスを受けている場合があります。そのストレスが少しずつ積み重なり、みかんの木にだんだんダメージが蓄積していくのです。このストレスが問題視されるようになったのは、気候変動の影響だといいます。



強いストレスをかけると果実の糖度が上がりますから、昔はこの手法で良しよされていたんです。
ところが、近頃は気温が高すぎる。気温が30℃を超えたら、みかんの木は常にストレスを感じている状態。生き残るのに精一杯なので、それ以上のストレスをかけると落葉してしまうんです。当然、葉っぱが減れば光合成能力も落ちますから、収量も下がります。
数年前までは、梅雨明けするまでは灌水する必要がないくらい、周期的に雨が降っていました。しかし、最近ははっきりとした梅雨がありません。降水がまばらなことで、みかんの木はさらにストレスを受けていると感じます。
マルドリ灌水と土壌水分計の利用で、みかんの木へのストレスを調整


そこで黒田さんは、愛媛のみかん農家のなかで先駆けて、15年以上前から「マルドリ方式(マルチの下に点滴チューブを設置し、自動で灌水を行う方式)」を導入しています。マルドリを使うことで、灌水や液肥の投入量が細かにコントロールできます。さらに、みかんの木が受ける水ストレスを調整するため、土壌中の水分量の状態・推移も把握する必要がありました。
そこで黒田さんがマルドリと合わせて活用しているのが、土壌水分計です。水ストレスを調整したい圃場で、まず黒田さんは土壌水分計を使って以下の取り組みをします。
- あえてみかんの木に水をあげず、水ストレスをかける
- 水ストレスが目視確認できた(葉の萎れなどが起きた)タイミングの土壌水分量を記録する
- 1と2を何度か繰り返す
- 2の値を限界値として、みかんの木がストレスを受けない土壌水分量の値の範囲を特定する



ストレスが目視できるということは、みかんの木にストレスがかかりすぎているという表れです。それ以上のストレスをかけ続ければ木は葉っぱを落としてしまいます。そうならないために、まず限界値を把握する必要があるわけです。
そして
・木へのストレスをできるだけ小さくしたいとき(夏場):限界値を超えないように灌水して、土壌水分量をキープ。
・果実の品質を高めるためにストレスを強めたいとき(9月から収穫始まるまで):限界値を少し超えるよう灌水量を減らす。
という調整をするのです。
この細かい水管理は、マルドリがなくては実現できません。
ちなみに、マルドリでの灌水は、1回1mm(約20分)を土壌が乾いていれば毎日行います。すると、地表から20cmから30cmくらいの深さに水が染み込んでいきます。



そうすると、その範囲に微細な根っこが集まってくるのです。地表にあるマルドリの灌水チューブの周りに根の塊ができるんですね。根っこが深いところにあると、水分コントロールが難しくなりますから、地表付近(20-30cm以内)に根っこを集めるのが大事なんです。
限界値を、自分で探っていく必要がある
ちなみに、黒田さんの圃場では、地表面から20-30cmくらいの範囲の土壌水分量が30%以上あれば、水ストレスはかからない一方、25%を切ると、目に見えてストレスがかかるということがわかっています。



雨が降ると土壌水分量は50%くらいになり、1週間から10日放置すると30%くらいに下がっていくこともわかったので、あと何日でストレスがかかるか予測がつくようにもなりました。
ちなみに、この値は園地によって異なりますし、使用する土壌水分計によっても異なります。黒田さんの値を参考にしつつ、自分の圃場で自分の購入した土壌水分計を用いて、限界値を探っていかなければなりません。



土壌水分計によって、測定結果に誤差があることがわかっています。実際に測定をしてみて、自分が購入した土壌水分計の傾向も把握する必要があるんですよね。
今回は、名人の灌水ノウハウを明らかにしました。次回は、名人が各季節にどのような栽培管理をしているかをご紹介します。灌水以外の栽培管理も一般的な方法と大きく異なり、驚きの連続です!











