農林水産省公式YouTubeチャンネルにて、弊社代表の百津が養鶏生産DX化について解説した様子が公開されました。
本記事では、その概要を紹介します。
より詳細に知りたい方は以下の動画を参照ください。
私たちの食卓を支える「鶏肉」。その多くは、わずか50日足らずで出荷される「ブロイラー」と呼ばれる若鶏です。日本ではこのブロイラーが、年間7億4千万羽も生産されており、動物性タンパク源として欠かせない存在となっています。
しかし、この膨大な鶏肉供給の裏には、繊細で負担の大きい生産管理があります。人の目で鶏の様子を確認し、温度や湿度を調整し、餌や水の量を管理し、体重を測定し、異常があれば即座に対応する――そのほとんどを人の手と経験に頼っている状態です。
IoTで解決できる、養鶏現場が抱える“4つの課題”
ブロイラーの生産現場が抱える課題のうち、IoTで解決できるものは大きく4つあります。

1. 見回りにかかる手間と属人化
鶏が健やかに生育しているか確認し、必要な箇所を清掃するために、人が1日何度も見回り、経験と勘を元に必要な作業を行います。しかし、こうした作業は時間も手間もかかるうえ、担当者の熟練度によって判断基準がばらつきやすいもの。経験の浅い作業者が担当すると、品質に悪影響を及ぼす場合もあります。
2. 環境調整に要する時間と技術
鶏にとって快適な温度・湿度を保つことは、成長や健康を維持する上で欠かせません。特に夏場は熱中症リスクも高く、カーテンの開閉やファンの調整を頻繁に行う必要があります。しかし、この調整もまた経験や直感に頼る部分が多く、属人的な作業となってしまっています。
3. 体重測定の負担
ブロイラーの育成では、「出荷日までにいかに大きく育てるか」が売上に直結します。体重の増加傾向をこまめにチェックすることが重要ですが、手作業での計測は時間がかかり、負担が大きいため、週1回の簡易測定にとどまる現場も多いのが実情です。
4. 生産状況の記録・共有が難しい
餌や薬剤の使用履歴、環境変化、死亡率、育成率といったデータを記録し、関係者と共有することができれば、生産現場におけるより的確な判断が可能になります。しかし、記録をすること自体の工数が増え、作業者の負担になっているケースも少なくありません。
クラウド×IoT×AIで、養鶏の「見える化」を実現

これらの課題を一挙に解決するために開発されたのが、アクトノードのクラウドアプリ「アクト・アップ」です。鶏舎で発生する情報の多くを、自動・または簡便に記録し、クラウド上で可視化・分析できます。
具体的には以下の機能が搭載されています。
・IoTセンサーで温湿度・飲水量などを常時計測(10分間隔)
・AIカメラで鶏の体重を上空から自動推定(誤差3%以下)
・スマホアプリで作業記録や異常を簡単に入力・共有
・クラウドダッシュボードやレポートでデータを即時に可視化・集計
・写真を撮るだけで情報記録
現場の変化:導入事例から見る効果

アクト・アップはすでに、年間120万羽を育てる佐賀県の青木ブロイラー様や年間100万羽以上を生産する山口県の大規模農場など、各地の生産者に導入されています。
導入後に得られた代表的な効果は次のとおりです。
見回り時間が約8%削減
リモートで鶏舎内の様子を確認できるようになり、実地の巡回頻度は維持しつつ、無駄な移動が減少。
残業時間が減少
「夕方以降の様子が気になって残業していた」スタッフも、リモートで確認できる安心感から早く帰宅できるように。
環境調整の精度向上
調整前後のデータを比較できるようになったことで、「トライ&エラー」ではなく、1回の調整で最適環境を実現。
若手のスキル向上
データを見ながら先輩と会話・振り返りができるため、暗黙知だった判断が“見える化”され、チームの育成にもつながっている。
これらの事例から見えてくるのは、アクトアップは単なる「記録ツール」ではなく、生産の品質・省力化・教育のあり方をトータルで変えるプラットフォームであるという点です。
青木ブロイラー様での効果の詳細は以下記事から確認できます。

サプライチェーン全体が変わる可能性も

アクト・アップによって記録・蓄積されるデータは、生産現場だけでなく、サプライチェーンの他のプレイヤーにも大きな価値を提供します。
精肉工場
いつ・何羽が出荷されるか」の見通しが立つことで、加工や出荷計画の最適化が可能に。
飼料メーカー
育成状況に応じた最適な飼料提案を行えるようになり、価値あるパートナーに。
獣医師
鶏舎の状況をリモートから診断し、出張せずとも初期対応ができるように。獣医師不足の解消にも寄与。
このように、「現場のデータ」を起点として、流通全体がよりスマートに、効率よく連携できる体制が整えられる可能性を秘めているのです。
技術の進化で、未来の養鶏がもっと自由になる

さらに注目すべきは、アクト・アップが日々バージョンアップを続けているという点です。
AI体重推定の精度向上はもちろん、鶏舎の自動環境制御装置との連携や、異常発生を予兆するアラート機能、畜産経営に必要な経営指標(KPI)の自動算出など、機能は拡張され続けています。現在は「AIが異常兆候を自動で検知し、適切な調整提案を出す仕組み」を開発中です。
養鶏業を取り巻く環境は、年々厳しさを増しています。気候変動によるリスク、労働力不足、そしてコスト高騰――これらに対応するには、現場の“感覚”だけでは限界があります。今こそ、デジタル技術を活用して、畜産の生産性を高め、持続可能な仕組みへと移行することが求められているのです。